はっとり浩之オフィシャルブログ

2013年4月10日

あるキング

カテゴリー: 未分類 — hattori @ 12:11 AM

伊坂幸太郎の小説「あるキング」(文庫版)を読み終わった。ちょっと前からちらほら読んでたんだけど、今日の夜、大日のイオンの丸福コーヒーでかなり集中して100ページぐらい一気に読んでしまった。
「いつもの伊坂作品と違う」みたいな感じに宣伝されてるけど、個人的には「SOSの猿」と「魔王」を足して二で割ってそこにアーヴィングの「ガープの世界」のスパイスを振り掛けたような感じに読めた。
けっこう面白くて、すらすら読めた。
このフランクなスピード感は、ある種のヴォネガットの小説っぽくなくもない。
個人的にはスピード感のある小説が読んでいて爽快感があるので、うれしい限りだ。
伊坂幸太郎って、「村上春樹っぽい」とよく言われてるけど、俺はあんまりそういう風に感じないんだけどなぁ。
これまで10作ぐらい読んでるけど、俺が伊坂作品を読むようになったきっかけって、斉藤和義とコラボしたのと、大江健三郎のことをすごく評価してくれていたからなんだよねぇ。
俺は大江健三郎の小説のあの過剰な雰囲気が大好きで、若い人が大江の健ちゃんをあんまり評価しないことに憤りを感じていたから、伊坂幸太郎が大江健三郎を真っ向からほめてるのを見て、すごく気持ちがよかったんだ。
それに、大江に対する評価が、すごく正しかった(と、俺は思った)。
「大江健三郎のすごいところは、その性描写だ。俺は、たいていの、小説に入っている性描写なんてサービスカット程度に感じてるんだけど、大江の性描写は全然違う。性への、異常なまでの尊敬と恐怖が感じられる」みたいな旨のことを、インタビューか何かで語っていて、「そうなんだよ、あの異常なまでの性への執着が、大江作品のすごさの一つなんだよ。そこらの小説と違うところなんだよ!」と、俺も激しく納得させられたのだ。
大江作品と言えば、やれ左翼的だ、反戦だ、社会への批評だ、というように硬直化された議論ばかりが繰り広げられているような気がするが、俺は、大江健三郎の一番のすごさは、過剰なまでの性と生への言及=恐怖心だと思っている。
ヒップホップ並みに攻撃的な、性への言及だ。
ワイルドさだ。
そして、濃厚さだ。
濃密すぎて、普通に考えると信じられないくらいにいやらしいのに、全然エロくない!
これがすごい!
情報量の過多によって、本質の逆転が引き起こされている!
と、話がずれたけど、俺は、伊坂作品って、村上春樹っぽいとは思わないんだよね。
だってそれってつまりは、「読みやすい」「ちょっとドライな感じ」「ちょっと賢そう」「ちょっと現実離れしている」「ちょっとカッコいい」ぐらいの意味合いでしかないんだもの。
それを全部「春樹系」とか言い出したら、現代的な小説が書けなくなる。
「読みやす」くて「ちょっとドライな感じ」で「ちょっと賢そう」で「ちょっと現実離れしてい」て「ちょっとカッコいい」のなんて、いいじゃん。
恐れずにどんどんそういう小説を読んだり書いたりするべきだよ!
(じゃぁお前も冒頭で「アーヴィングっぽい」とか「ヴォネガットっぽい」とか書くなよ、とどなられそうだな、笑。いいんだよ、それを悪いことだと言ってるわけじゃないって気持ちなんだから)

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