村上春樹「辺境・近境」を読む。
なかなか興味深い内容だ。
これは小説ではないが、ある意味では小説以上に興味深い。
アメリカ・メキシコ・四国・モンゴル・震災後の神戸を旅する記録の本。
僕自身、かつてはライターをやっていたので、なおさら強く感じるのだが、たとえばアメリカのように、道の土地を体験する場合、経験としての「得たもの」は書きやすい。
しかし一方で、たとえば四国のように、近い土地になると、逆に、経験するべき異質なものが減ってしまう。
エッセイにせよ何にせよ、何らかの、未知から導き出される知見が含まれていなければ、無意味になものになってしまう。
そういう意味で、この本は、村上春樹という一流の作家が、遠い土地から近しい場所までを、さまざまに書き分ける技術がうかがえて、ものを書く人にとってはとてもありがたい一冊だろう。
メキシコ編が読み物としては面白かったが、「ねじまき鳥クロニクル」で言及したノモンハンの戦闘にたいする立ち居地が垣間見える(歴史は、起こったことの真偽以上に、その真偽を信奉することによって生まれる国民的合意のほうが、政治的意味を持つ、的記述がある)モンゴル編と、故郷という具体的なノスタルジーを珍しく語る神戸編が、内容的には深かった。
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それにしても、読んで思うのはやっぱり、「男らしさ」というか、乾いた、「タフでハード」な態度だ。
男は黙って……的な、小賢しくない美学が、文体からにじみ出ている。