そこにいないということで
目隠しをして
だけれども
部屋の片隅に
座っているおとこ
夜が
真空管のラジオから
トラッドフォークを
紡ぎだし
おとこの耳を
慰める
※
まるで孤独と
病院に
二人っきりで入院をしてるよう
顔の形を忘れてしまい
のっぺらぼうに見えてた妻が
みかんの皮をむいている
心の皮も
おんなじように
むいてくれたらと
思っている
※
そこにはいないという
ことが
川のように流れてる
国会議事堂の
レプリカが
自宅の机の上においてある
作りかけの模型には
どこか
寂しいところがあるね
真空管は
同情をして
りぃーん
りぃーんと
共鳴しそう
※
おとこが
存在をする方法は
いくつもの本に書かれてる
ありきたりな説法が
定型文に
にじんでる
おとこのことを
愛していた家族たちは
かわりばんこに座ってる
古びたいすの
ビニール革が
人間の体温を
見比べている
※
30歳を過ぎた
おとこの息子が
パソコンを一つ持ってきた
パソコンのフォルダの中の
おとこの動画
むかし撮ったビデオから
MPEG2に変換されている
25年前のおとこの
顔が
家族を前に
笑ってる
学芸会の
小さな講堂
みんな楽しそうに
笑ってる
でもふるいビデオだったので
おとこの顔は
いまにも
消えてしまいそう
ビデオの中の
おとこの顔が
真っ白で見えなくなったとき
本当におとこの存在は
そこにあることになるだろう