拡大された世界では
夜を見るのも大変で
小さな闇の粒子の中に
朝の光が迷ってしまう
※
からころ下駄の音を鳴らして
温泉街でも歩いているよう
世界はこんなに広がったのに
町は軒並み一回り縮んでしまった
縮んでしまった小さな町が
さびしい気持ちに同意している
※
縮小された世界から
君が空席のままやってくる
君は初めからいなかったのだが
君という空席は
ちゃんとそこにある
空席が空席のままの列車が
レールをきしませ
この町を過ぎ去った
過ぎ去った跡に開いた花は
少しふしぎな色模様
※
君がそんな風にして
やってきたとき
僕はガード下で
たたずんでいた
僕には君が
見えなかったし
君は
僕を見ることが出来ない
君の空席は
拡張をはじめ
やがて君は広い空白になる
※
君でさえ
そうなってしまった
君でさえ
そうなるのだと
嘆く声が
また新しい空席の
列車を送り
同じように
空白だけが広がる
きしまされたレールだけが
訳知り顔で
微笑んでいる
※
拡大された世界では
夜を見るのも大変で
小さな闇の粒子の中に
朝の光が迷ってしまう