はっとり浩之オフィシャルブログ

2012年5月8日

Cold Iron Bound

カテゴリー: 未分類 — hattori @ 1:35 AM

無意味なテレビを

見ただけで

「すべてわかった」

とあなたは言う

「ロミオはジュリエットをオセロ王の密偵に取調べさせてその衣服をはぎ取ったのだ」と

なるほどならば

ジュリエットの毒はだれが煎じて飲ませたのか?

「薄っぺらい魂の造形が人間たちを衰退させているの」

とあなたが言う時

そのあなたの鼻がひくついて

醜いのが見える

夕日の中のベイビー

俺は帰ってくるとき必ずシャウトする

「俺は帰っている途中だ」と

いいや、

ちがうな

いつもたどり着かない家路

延々と続く

帰還の帰途≒いまだ途中の帰路

こそが正しい

目を開けば

ミサイルが発射される前に常に爆発している都市が見える

「ソドムとゴモラの記憶は生ごみにして出しておいた。匂いがひどいから隣家から苦情があった」

ポストカードにはエデンの門があしらえてある

ゴージャスなレリーフには

信じられないような淫行の記録

そしていつも同じ俗事が

さも正義であるかのように書きしたためられている

夕日のように顔色が変わったベイビー

家に帰る途中

ネクタイに首を絞められた若い男が

吐しゃ物で股間を汚している

そんなもので

恋を代行したあなたは

角のタバコ屋で

セブンスターの値上がりに

憤慨している

国を

嘲笑い

自分だけが唯一の正義であると語れば

人々が列をなして並ぶ

まるで

映画のスタッフロールのように

計算しつくされ、

すでに決められた言語を語る

「見よ、あの外見の美しさと勇ましさを」

と、知恵の妖精が語る

「美しい外見は、勇ましい声色は、すべての嘘を裏返しにする」

私は目を閉じて生きてきた

すくなくとも、この15年間

テレビのスイッチを切り

性悪説を信じて

生きてきたのだ

コペルニクスの

小さなフラスコの中で

『構図』がバク天をする

ちいさな人物相関図すら

ろくに描くことができない

あの構図を描くと

また違う構図

どれもが

当てはまりすぎる

それゆえに

一つの啓示が

単純にできない

そのことが

あの若い男の首を

ネクタイで締め上げたのだ

股間を汚す吐しゃ物の匂いよ

鋭くとがって

あの娘の心臓を突き刺してみろ

「ジュリエットはロミオの外見に見とれ、みだらな表情をした」

「そのあとすぐ、吐き気がやってきて、胃の中のものをおおかた床に吐いた」

「ロミオの息があまりにも臭く、そして性根は、3年間机の中に忘れておいたぬかずけよりも腐っていたのだ」

腐敗臭のすみかはいつも

自称正義と他人を糾弾する集団にある

夕日に溶けて

美しく見える顔が

突然に瓦解する

廃墟の町から

友人が送ってきたポストカードには

酩酊のような文書が

したためてある

太陽に突き刺され、

行く先を過ち、

目がくらみ、

帰る家もなく、

鼻を膨らませ、

他人を批判することに無批判になり、

揚げ足を取られて、

信じていた人間にすっころばされ、

かわいいかわいいと

愛していた息子のような男に

欺かれ

そうしてようやく

絶対悪は

存在しないのだとわかる

額から血液を流し、

瞳からは涙があふれ

悪臭漂う生ごみに顔を突っ込んで果てたジュリエットのように

ひっくり返って

泡を吹きながら怒鳴り散らし

事実をゆがめて報告をし、

自分だけが正義であるとうそぶき

それによって気が楽になり、

ストレスの解消のために

他人を傷つけ

ようやく分かったことだが

「初めから私がやっていた喧嘩は

 必ず勝てる喧嘩ばかり

 私は強い人には戦いを挑まず

 勝ち目のある地道な人間ばかりを攻撃していたのだ」

と悔やみ

次の瞬間、酒場の屋根が割れて

19世紀の月が唐突に闇夜に浮かび

港町だったので

片足にけがをしたひげもじゃの男が

もう一つの戦争について

口笛で啓発している

「あなたが体験した戦争は

 とても戦争とは言えない代物だ

 ひどい、ひどすぎる

 あれはただのおままごとだ

 あなたはいったいどんな危険性を

 薄氷の上を

 わたってみたのか

 馬鹿を言うんじゃない

 あなたは経験不足だ」

「いいえ、でも、そう

 そのとおり、

 そして戦争はいつも

 そのように

 簡単に単純に

 経験などものともしない次元で

 存在している」

世間知らずの

貧血気味の

ごね得の

少年が

美しい笑顔で

老婆を欺き

すべての真実を

自分のもとへとおびき寄せようとする

「おぉ、あなたのかわいそうな人生を私が吸い上げてあげる」

猫なで声の

恐ろしさよ

ポストカードに

大きな月がかかってる

エデンの門は

今日も開かない

人間たちの残虐は

レリーフのいやらしい模様のついでに

こう伝えられている

「絶対悪を信じる者が痛い目に合うのだ」

「絶対的な正義を名乗る人間が

 だまし、

 陥れ

 打ち砕き

 そして

 人々は醜くなって

 他人を糾弾する」

夜明け前

ほそぼそと

パンを食していた僕は

東からやってきたバスに乗った

街にはまだ

雨の匂いが漂っていた

すべて

絵画の中から

出てきただけの

水分だった

白々しい

演出の世界

演出と外見を取り払えば

あなたの生存は確立が

ぐんと高まるのに

「おしい」

と隣の席で髪を結う少女がつぶやき

冷たい

鉄条網

窓の外を

緩やかに上下をした

二つ前の座席の

老人が

水蒸気でくぐもった窓に指で文字を

書いた

『性悪説を

 信じるならば

 あなたの信じる人を

 まず悪人だと思うべきだ

 あなたの

 性悪説は

 都合のいい一部にのみ

 適応している

 それが

 いやならば

 絶対的な悪を

 絶対的な正義とともに

 否定せよ』

文字は

震えて

泣き叫び

乗客たちの耳たぶや

鼻の先を

噛みまわり

やがてぶるっと

一度身震いをすると

黄色い空へと

吸い込まれていった

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