はっとり浩之オフィシャルブログ

2013年9月10日

神戸、さすらい

カテゴリー: 未分類 — hattori @ 11:28 PM

今日は、地方政治について、大学時代の先生に紹介してもらった勉強会に、神戸付近まで行ってきた。
ついでだから、と、夕方に一人で神戸をうろついてみた。
具体的には、阪急三宮の高架下の「駅前」でおなじみの海鮮丼(480円! 結構安いのでおすすめ)を食べて、県庁まで行って、地下鉄大倉山駅あたりまでぶらぶら歩いて、そこから元町の商店街まで歩いて戻ってきた。

久しぶりに、夕暮れの神戸をぶらぶらと歩いて、気分はどうだい?と、ボブ・ディランみたいに尋ねられると、「うん、悪くないよ。…悪くない。でも、なんだか、すごくさびしいんだ。体に穴がぽっかりと空いちゃったみたいな…。」と今日の僕は答えるだろう。
かなり、歩いた。
高架下から、山の手の方まで歩いて、そこからさらにJRで2駅分ぐらい歩いて、戻ってきた。
体は疲れている。
でもこの、変な気分は、体の疲れじゃない。
体が疲れているだけなら、もっと心地の良い達成感があるはずなんだ。
僕が昔、神戸をよく歩いていたころ、体が疲れれば疲れるほど、心は晴れ渡っていた。
今日は、全然違う。
なんだか、知らない土地にいるみたいな…。
そうか、この気持ちは、不安なんだ。
不安。
不安定な、心。
ずっと遠くの知らない場所に、漂って、流されてきてしまったみたいな…。

もう何年も前のことだけど、僕は、毎日のように神戸をうろついていた。
そのころ僕は、埼玉で勤めていた会社を辞めて、大学に通いなおしていた。
高卒で働いていた年増の男が、19、20歳の若者に交じって大学に通うのは、もの悲しかった。
もともと気が弱くて被害妄想の傾向がある僕は、若者たちが自分に奇異の目を向けているような気がしてならなかった。
「おいおい、なんで、おっさんがクラスに交じってるわけ?」
「あのクズよぉ、高卒で就職して、辞めて、いい年して大学に通いなおしてんだとよ。負け組だよな。情けねぇ。終わってやがるぜ」
そんな声が聞こえるような気がしてならなくて、大学に通うのが嫌でならなかった。
そんなころ、俺を励ましてくれたものが、二つあった。
一つは、当時始まったばかりのけいおん!で、偶然深夜にテレビをつけたらやっていて、オープニングで主人公が歌う主題歌の中の「遅刻はしても、早退はノンノン」というフレーズを聴いて、俺は雷に打たれるぐらいに感銘を受けたのだった。
「確かに、俺は学校に通うのが嫌だ。行きたくないから、いつも遅刻してしまう。それどころか、仮に教室に入っても、教室に入った途端に、嫌になって、即様に教室を出てバックれてしまう。だが、『遅刻はしても、早退はノンノン』か…。確かに、途中で教室を抜けることだけは、なんとか我慢してみようかな」
単純な俺は、痛く感化されて、遅刻はしても、早退だけはしないように心がけた。
もしも唯がオープニングで『遅刻も早退もノンノン』と歌っていたら、俺はとても耐えられなかっただろう。
だが、せめて遅刻は許してくれていた。
遅刻か早退か、どちらかなら我慢できる…!
俺にそう思い込ませたのは、大きかった。
あの歌がなかったら、俺は多分大学をドロップアウトしていただろう。(それはそれでロックかもしれんが)

もう一つ、当時の心の傷ついた俺を助けてくれた物は、神戸の布引の滝だった。
都心からすぐの位置にあるこの滝をぼんやりと眺めていると、夢ばかりが大きかった埼玉での仕事生活や、負け犬みたいに戻ってきた大阪でのみじめな現状が、すべてバカらしい、どうでもいいことのように思えてきた。
心のひだにたまったうろのようなものを、滝が洗い流してくれるような気がした。
当時、僕は、はっぴぃえんどからの流れ(はっぴぃえんど→細野晴臣→YMO→坂本龍一→南佳孝)で、南佳孝の「サウス・オブ・ザ・ボーダー」にはまりこんでいて、イヤホンでその音楽を聴きながら、ずぅっとぼんやりと布引の滝を眺めていた。
授業が終わるとすぐに教室を飛び出して、神戸に向かっていた。
本当に、週に三日ぐらいは、布引の滝の前にいたと思う。
あのころ、布引の滝は、俺にとって、自分の居場所だった。

そんな神戸が、今日、久々に歩いたら、とても遠い、他人の土地に思えた。
かつて親しかった友人と、久しぶりに会ったら、もう二人の波長が合わない。
なんだか、うまく会話が続かない。
そんな感じだ。
俺の神戸は、散歩をする街じゃなくなってしまった。
さみしく、一人さすらう街になってしまった。
違う、違うんだ。
いいんだよ、神戸。
そんなにすまなさそうな顔をしないでくれよ。
君が悪いんじゃない。
俺がきっと、変わってしまったんだ。
俺が、君から離れすぎたんだ。
時が、流れすぎただけなんだ。
ただそれだけのことなんだ。
俺?
俺かい?
よく聴いてくれよ、うれしいことを、伝えたいんだ。
俺は、あのころよりも、ずっと強くなったぜ。
たまにへこたれるけどよぉ、だいたいは一人で立ち直れる。
もう、歌なんか聞かなくったって、遅刻も早退もしないぜ。
それどころか、むかしの黒人歌手みたいに「来いよ、ベイビー、俺が悩みを聴いてやるぜ」って、大声で、言えるぐらいの勇気があるんだ。
すげぇ、だろ?
お前のおかげさ。
お前のおかげなんだよ。

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